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2015年8月30日日曜日

夕ぐれの時はよいとき

2週間程前、一人で淡路島に行った。その帰り道、福良発三宮着の高速バスに乗ったのだが、その車窓から夕ぐれの写真を撮った。画像は鮮明ではないが、アップしたい。言わずもがなだが、現在の私の心境に似つかわしい写真である。


 
 

 



堀口大学夕ぐれの詩を思い出した。正確には憶えていなかったので、調べてみるとすぐに分かった。約50年前の詩である。



堀口 大學(ほりぐち だいがく、新字体:堀口 大学)

1892年(明治25年)1月8日 - 1981年(昭和56年)3月15日)は、明治から昭和にかけての詩人、歌人、フランス文学者。訳詩書は三百点を超え、日本の近代詩に多大な影響を与えた。雅号は十三日月。葉山町名誉町民。 (Wikipediaより)


夕ぐれの時はよい時  堀口大學



夕ぐれの時はよい時、
かぎりなくやさしいひと時。

それは季節にかかはらぬ、
冬なれば煖炉のかたはら、
夏なれば大樹の木かげ、
それはいつも神秘に満ち、
それはいつも人の心を誘ふ、
それは人の心が、
ときに、しばしば、
静寂を愛することを
知つてゐるもののやうに、
小声にささやき、小声にかたる……


夕ぐれの時はよい時、
かぎりなくやさしいひと時。


 若さににほふ人々の為〔た〕めには、
それは愛撫に満ちたひと時、
それはやさしさに溢れたひと時、
それは希望でいつぱいなひと時、
また青春の夢とほく
失ひはてた人々の為めには、
それはやさしい思ひ出のひと時、
それは過ぎ去つた夢の酩酊、
それは今日の心には痛いけれど、
しかも全く忘れかねた
その上〔かみ〕の日のなつかしい移り香〔が〕。


 夕ぐれの時はよい時、
かぎりなくやさしいひと時。


 夕ぐれのこの憂鬱は何所〔どこ〕から来るのだらうか?
だれもそれを知らぬ!
(おお! だれが何を知つてゐるものか?)
それは夜とともに密度を増し、
人をより強き夢幻へとみちびく……

夕ぐれの時はよい時、
かぎりなくやさしいひと時。

 
夕ぐれ時、
自然は人に安息をすすめるやうだ。
風は落ち、
ものの響〔ひびき〕は絶え、
人は花の呼吸をきき得るやうな気がする、
今まで風にゆられてゐた草の葉も
たちまちに静まりかへり、
小鳥は翼の間に頭〔かうべ〕をうづめる……


夕ぐれの時はよい時、
かぎりなくやさしいひと時。
 
 
猛暑も過ぎ、このところ夕方は涼しくなった。一層、詩人のことばは心に染み入る。 今回は、これでおしまい。

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