ページビューの合計

2016年5月10日火曜日

微分方程式講義(2016年版)IV

線形方程式や完全形の微分方程式以外にも求積法により解ける非線形微分方程式が昔から知られている。今回はそれらの古典的な微分方程式について学ぼう。

2.5 その他の微分方程式


この節では、求積法により解くことのできる有名な(発見者名についた)微分方程式をあげる。
 

 

1.ベルヌーイ型微分方程式


(2.17)    y' + a(x)y  + b(x)yⁿ = 0 


を考える。 このような y についての n次式を含む非線形微分方程式を 

ベルヌーイ型微分方程式 という。 


ダニエル・ベルヌーイ(Daniel Bernoulli, 1700年2月8日 - 1782年3月17日)

スイスの数学者・物理学者。


n=0    または n=1 のとき、(2.17)  は1階線形方程式になる。 

(2.17)  は線形でないが、置き換えによって線形に直せる。

u = y1-n    とおくと、 u' = (1-n)y-n      となる。 ここで uyⁿ = y  に注意する。 

したがって、(2.17) は、

           u'yⁿ /(1-n)  +  a(x)uyⁿ +  b(x)yⁿ = 0 
 
すなわち  

 (2.18)    u' + (1-n) a(x)u  = - (1-n) b(x)

となる。 これは、1階線形微分方程式なので 2.3節の方法により解ける。

 
 
 
 
最後に 自然数 n は、任意の正数でも差し支えないことを注意しておく。
 
 


2. リッカチ型方程式


y について2次の非線形方程式

(2.19)    y' = a(x) + b(x)y + c(x)y² 


を考える。 この形の方程式を  リッカチ型方程式 という。


ヤコポ・フランチェスコ・リッカチJacopo Francesco Riccati、1676年5月28日 - 1754年4月15日)

イタリアの数学者。


一般には、この方程式は求積法により解けない。 

しかし(2.19) の一つの解が求まれば  求積法により解くことができる。 

y = y₀(x) を (2.19) の一つの解とする。 u = y - y₀   とおく。  

y' = u' + y₀'  なので 代入して

     u' + y₀' = a(x) + b(x) u + b(x)y₀ + c(x)y₀² + 2c(x)u y₀ + c(x)u² 

整理すると、

                   u'  = (b(x) + 2c(x) y₀)u + c(x)u²  + (y₀' + b(x)y₀ + c(x)y₀²) 

この式の最後の項は 0  なので


(2.20)     u'  = (b(x) + 2c(x) y₀)u + c(x)u²  



となり、 これは n=2 の場合の ベルヌーイ型微分方程式となる。

さらに v=1/u  とおくと u'= -v'/v² なので (2.20)   代入すると

                -v'/v²  = (b(x) + 2c(x) y₀)[1/v] + c(x)[1/v²] 

となり -v²倍して方程式

         v'  = -(b(x) + 2c(x) y₀) v - c(x) 


が得られる。 これは、v についての1階線形方程式なので

これを解いて (2.19) の解が得られる。 

 
 

前年度の例は間違っていたので、新たな例に差し替えた。

3. クレロー型方程式


(2.21)     y  =  xy' + f(y') 

の形の方程式を クレロー型方程式  という。 ただし f は C¹級とする。  



アレクシス・クロード・クレロー(Alexis Claude Clairaut、1713年5月13日 - 1765年5月17日)

フランスの数学者、天文学者、地球物理学者。


(2.21)  を x で微分して  y' = xy'' + y' + f '(y')y'' つまり

                  y''(x+ f '(y')) = 0

これから

(i)  y''=0    の場合 

y'' = 0   ⇒ y' = C  ⇒ y = Cx + D

ところで、 (2.21) より D = f(C) となるから

        y = Cx + f(C)    (C: 任意定数) が解。


(ii)  x+ f '(y') =0    の場合 

このとき y' = p をパラメータとすると (2.21) と連立して

(2.22)     x = - f '(p),   y  =  -p f '(p) + f(p) 

がえられる。  この p をパラメータとする 曲線 (x(p), y(p)) は (2.21) の解であるが

(i) の解の任意定数 C をどのように選んでもこの解は得られない。 この意味で この曲線を

(2.21) の 特異解 という。 

実は、(i) の直線群の包絡線が (2.22) で与えられる。 

 
 
 

 

 

2.6 微分不等式とグロンウォールの不等式


微分不等式 とは、微分方程式の等号を不等号に変えたものと言える。

方、グロンウォールの不等式とは、積分を含む不等式である。共に理論上大切な不等式である。

以下、積分記号を美しく表示するのは、難しいので 区間 [a, x] 上の積分を [a,x] で表わす。



定理 2 φ(x),  Ψ(x) は、区間 [a, b] 上で 連続な実数値関数とする。

[a, b]  上の関数  y = y(x)  が不等式 

(2.23)    y' + φ(x)y   Ψ(x)  

をみたすならば x∈ [a, b]  に対して不等式 

(2.24)  

y(x)   exp(- [a,x] φ(t)dt ){y(a) +  [a,x] Ψ(t)exp([a,t] φ(s)ds)dt}

がなりたつ。  

とくに φ(x) ≡ A > 0,   Ψ(x) ≡ B ならば 結論 (2.24)  は、 

(2.25)     y(x)   exp(-A(x-a)) y(a) + [B/A] (1 -  exp(-A(x-a))

となる。

(証明)  u = exp([a,x] φ(t)dt) >0 とおく。 (2.23)  の両辺に u > 0 を掛けて

y'u + φ(x)uy   uΨ(x).    ところで、  積の微分公式より  

(yu)' = y'u + u'y = y'u + φ(x)uy  なので、 この不等式より 

            [d/dx](y(x)u(x)) ≦ Ψ(x)u(x)

がしたがう。 この不等式を a から x まで積分すると 


         y(x)u(x) ≦  y(a)u(a) + [a,x] Ψ(t)u(t)dt
 
u(a) = 1,   1/ u(x) = exp(- [a,x] φ(t)dt)  なので、 上式を u(x) で割って

     y(x)   exp(- [a,x] φ(t)dt ){y(a)[a,x] Ψ(t)exp( [a,t] φ(s)ds)dt}

がいえる。 これは、 (2.24)  に他ならない。

さらに φ(x) ≡ A > 0,   Ψ(x) ≡ B のときは、(2.24) に代入すると

  y(x)   exp(-A(x-a)) {y(a) + B[a,x] exp(A(t-a))dt }

 となり、積分を実行すると (2.25)   が得られる。               (証明了)



微分不等式 に対応して、積分不等式 というのがある。 

これは、微分不等式を積分した形の不等式である。 その例である応用上も有益な

グロンウォールの不等式 をのべよう。


定理 3 φ(x),  y(x) は、区間 [a, b] 上で 連続な実数値関数で

φ(x) ≧ 0  とする。  c  は実定数とし、 

y = y(x)  が 積分不等式 

(2.26)      y(x)   c + [a,x] φ(t)y(t) dt  

をみたすならば x∈ [a, b]  に対して不等式 

(2.27)     y(x)   c exp([a,x] φ(t)dt )

がなりたつ。


(証明)   F(x)  =  [a,x] φ(t)y(t) dt  とおく。  φ(x) ≧ 0  なので 

(2.26)  の両辺に φ(x) を掛けると  

φ(x) y(x)   c φ(x) + φ(x) F(x) .    

 一方 F'(x) = φ(x) y(x)  なので この不等式から、 F(x)  に関する微分不等式

             F'(x) - φ(x)F(x)   c φ(x)  

が得られる。 よって、定理 2 より    F(a) = 0  に注意して

                   F(x)   c exp([a,x] φ(t)dt )[a,x] φ(t)exp(- [a,t] φ(s)ds)dt

ここで、(2.26)  を使うと

y(x)   c  + F(x)  

          ≦  c + c exp([a,x] φ(t)dt ) [a,x]  φ(t)exp(- [a,t] φ(s)ds)dt

          =  c { 1 +  exp([a,x] φ(t)dt )[a,x] [-(d/dt) exp(- [a,t] φ(s)ds)] dt }
           c { 1 +  exp([a,x] φ(t)dt ) [- exp(- [a,x] φ(s)ds+ 1]}
        =  c exp([a,x] φ(t)dt )

となり結論 (2.27) が従う。       (証明了)




定理3は、つぎのように一般化される。 証明を試みよ。(演習問題

定理 3’ φ(x),  y(x),  β(x) は、区間 [a, b] 上で 連続な実数値関数で

φ(x) ≧ 0  とする。  y = y(x)  が 積分不等式 

      y(x)   β(x) + [a,x] φ(t)y(t) dt  

をみたすならば x∈ [a, b]  に対して不等式  

     y(x)  ≦ β(x) + [a,x] β(t)φ(t) exp([t,x] φ(s)ds) dt

がなりたつ。
 
 
 




これらは解の比較定理と呼ばれ、常微分方程式や確率微分方程式の理論上では強力な武器になる。

0 件のコメント:

コメントを投稿